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ありがたいお言葉たち Ⅱ

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角川春樹文庫 ランティエ叢書
「美しくなるほど若くなる」 白洲正子著

「しょせん世のもろもろの美しきものに私達があこがれるのも、
人間の弱さからであります。
それが堕落しやすい私達を辛うじてささえもし、
またそれらのものの前でなら、
感傷的になることなく、安心して、手放しで涙をこぼすことも出来るのです。

大人も泣くことが出来るのです。

自分が弱いものであることを痛感しないかぎり、
芸術家でも美術家でもありません。
人間の感情、気まぐれな好みとか、たよりない言葉は十人十色であり、
その時々変わるものであるにかかわらず、
また美しいものは世の中に多いにもかかわらず、

美はたった一つしかない。

そういうことを美術は教えます。
たった一つしかないからには、それはものの美しさであるとともに、
それをつくった、あるいはそれをつくらせた人の美しさでもあります。
結局、真の人間嫌いとは、ですから、

ほんとうは誰よりも人間を愛する人のことをいうのです。


「いかにして」、「なぜ」、「なんのために」、
問題は手あたり次第そこら中に転がっている筈。
そして追い詰め追い詰め自問自答をするうちに、
必ずハタと行き当たるものがある筈です。

それが、あなた、です。
それが、あたし、です。

それが総合的に統一のとれた一人の人間の姿です。
少しもあいまいなところのない、いかにもはっきりした自己の姿であります。
おそらくそれは大した立派なものには見えますまい、
もしかすると小さな小さな、ほんとにつまらないものに思われるかもしれません。
しかし、いかに小さくとも、いかにみじめに見えようとも、
それはそれなりで美しいのです。
どんなにみすぼらしくとも心身ともに健康な人が美しいのと同じように、
芸術でも人間でも、総合的な美しさにまさるものはないのです。



どんなに美を解さない人でも、人間と生まれたからは、ほんのちょっとした折ふしに、
必ず心に触れる何ものかがある筈です。
ほんとうに「ああ、いい」とため息をもらすほどのものに触れたとき、
思わず手を合わせたくなる、
その気持ちこそ何よりも大切にしなくてはならないと思います。

それはまたたくまに消えてしまいましょう。
が、度重なるうちに次第にはっきりした形を備えてゆき、
ついには私達はれっきとした存在を真ずるまでに至ります。
その形はますますあざやかな輪郭を現しつつ、大きく育ってゆきます。
ふつう経験といわれるものは、度重なるにつれて馴れてゆくものです。
しかし、これは別です。
これはその都度まったく同じものでありながら、
しかもその度に、まるで初めて起こった出来事のように、
新しく、めずらしく、あらためて私達はびっくりするのです。
それは古い古いものであるにもかかわらず、しかも驚くべきあたらしさです。
若さです。

そういうものを、芭蕉は「不易」と名付けました。
世阿弥は「花」といいました。
またある人々は「つねなるもの」あるいは「永遠の美」と呼んだりします。

これらはみな一様に、変わらぬものの美しさという意味であります。


本当に美しい言葉の数々。
蔵書整理にてご紹介していましたが、御本はご予約が入りました。
by otomeya | 2005-09-22 21:14 | 乙女文学


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